出荷待つ梅

縄巻いて根鉢の梅の芽ぐみけり

立派な梅の木が出荷を待つばかりに立てられている。

造園業の畑の端に、見事なまでに形を整えられた枝垂れ梅たちの、たくましいほど大きい根鉢が縄にしっかりと巻かれ、コンパクトに伸びている枝はそれぞれ芽を膨らませ、一部は咲き始めているものもあるようだ。
土から掘りあげて根鉢が十分育つまで一年はたっぷりとかけたのであろう。
このまま植えられれば、客先の庭には一度に梅の春がやってくるにちがいない。

寒い雨

弔ひのけぶり真白し冴返る

盆地の底冷えのする日は風がない。

盆地の周囲を見渡すと白い煙が幾筋もこもるように昇っている。
昭和の時代、自治体の合併が進まなかった当県では、当然のごとく美化工場、火葬場の統廃合も進んでないからであろう。

昨日一日だけは気温も上がって喜んだが、たった一日で冬が戻ったように寒い。
寒いうえに雨ではよけい寒さがこたえる。

青い鳥見つけた

下萌や頁つきたる鳥日誌
後円まだ前方墳の下萌ゆる

今日は久しぶりに気温10度を超えた。

そのせいだろうか、ここんところ渋っていたいろんな鳥さんたちの姿をじっくり観察できた。
とくにルリビタキ(♀)は今冬初めてで、一回しか見てなかったトラツグミを四カ所で目撃するなど収穫は大。
句帖の端っこに今日の鳥をメモするのだが、今日は二桁はいけて、久しぶりの鳥日和。

足許はというと、枯れきった墳丘の裾には点々と下草が芽生えてきたといおうか、今まで寒さで葉が地面に這うように低く臥していたのが、むっくり顔を起こし始めたような気がする。

二月堂へ

正倉院右二月堂凍ゆるむ

東大寺裏はまだ人もまばら。

岐れ道にかかると、二月堂あるいは正倉院への道しるべが控えめに、しかし明瞭に示されていて、ここへ来るたびに今日はどっちにしようかと迷うところでもある。
あたりを見回してみると、芝地が広がっていて、例によって鹿の糞がまばらに散っているのだが、ここのところの寒波で半ば凍っていたと思えるところが緩び始めているようだ。
ゆかるみを踏まないように芝地を歩いてみたが、舗装路ではない独特の感触が足裏にこころよい。
その余勢をかって二月堂の坂を進むことにした。

横取り

領外に野宿いとはず恋の猫

ふだん見馴れない猫がみぃちゃんのいつもいるところに昼寝している。

ここ数日、夜になるとうるさくやって来る奴の正体はこいつだったようだ。
みぃーちゃんは恋の相手にはなれないので、図々しく寝床を横取りしたようだ。
一喝すると慌てて逃げていったが、明日もしつこくやってくるかもしれない。

寒いが日が伸びた

氷室社の手水あふれて薄氷
手つかずの森はすぐそこ春の水

奈良町、奈良公園の水という水はすべて凍っている。

東大寺前の鏡池は文字通り氷面鏡となって、松落葉を閉じこめている。
鹿たちの沼田場も凍りついて、春日の森から流れてくる水はふだんから多いようであるが、その一部も氷が張って鹿はその隙間の水を飲んでいる。
薄氷、春の水と季語としては春のものだが、奈良は真冬の底にある。
何とか春を見つけようと二月堂に向かったものの、修二会の準備作業も今日やっと始まったばかりで、春と言えば二月堂下の屋敷の塀越しにいく粒かの紅梅を発見したくらい。
修理を終わり、三年ぶりかで帰ってきた不空羂索観音さまにお会いしたが、残存のお堂としては最古の堂は底冷えがして10分とはいられないくらい。

それにしても日が随分と伸びたものだ。
吟行から帰ってきても外は十分に明るい。

寒明けの雪

古歌の碑をたどる山路の雪解かな

今朝飛鳥村が薄化粧したというニュースに飛びついた。

甘樫丘に登れば飛鳥旧址全体が見えるかと、昼食ももどかしく真っ直ぐかけつけたが、稲渕など奥飛鳥を残してほとんどの雪は消えている。
雪の旧蹟を歩く興はすっかりさめたが、それでも飛鳥に来るとまず登ってみたくなるのが甘樫丘なのだ。
今日は南から北に向けて、南北に長い丘の尾根を歩くことにした。尾根の径は、万葉の植物園路と名づけられ、万葉古歌に詠まれた樹木が植えられて、一本一本立ち止まっては歌と木の名を確かめながら歩くのでちっとも退屈しない。
ただ西風がやたら強く、展望台に立つとせっかく登ってきて温まった体がすぐに冷えてきて長居はできそうもない。
三山をぐるっと見渡して、盆地をさっと眺めただけで帰路をとることにした。

だが、さすがに小鳥は多い。双眼鏡を持たずに来たので、目の前で確認できたのだけでも、ヤマガラ、ジョウビタキ、コゲラ、シジュウカラ、アオジ、モズの雌雄などなど。

雪解と言うほど積もったわけではないが、日の当たらない部分ところどころ夕べの雪が残っている。雪解水もしたたるわけではないが、久しぶりに雪を見ることができた。