滑空

寒晴やセスナ低きに近く飛ぶ

林の向こうから急に爆音がした。

セスナが突然現れたのだ。
頭上百メートルもあるかなきかの低空だ。機体に書かれた識別記号はもちろん、操縦している者の顔さえ見えるかだ。
とっさに頭をよぎったのは、ここ一二年何回か八尾の飛行場を発ったセスナやヘリが事故をおこしていることだった。
思わず首をすくめたが、セスナはそんな不安や怒りを歯牙にもかけぬごとく国原を滑っていった。

孤高

凍鶴の眼中おかず吾も檻も

鶴は動物園でしか見たことがない。

檻の前に立っても、身じろぎもせずただ眠っているように首をすくめるときもある。
しばらく対峙していてもなんの反応をみせてくれないと、たまらず根負けしてしまって、急に寒さを感じてしまうものだ。
鶴ではなくて、散歩で見かける鷺の仲間も同じようなところがあるが、よく見てみると寝ているのではなくて、獲物を狙ってじっと動かずにいるだけのことの方が多い。
鴨の浮寝というのはどこかのどかという風情が伴うが、厳寒の鶴の寝姿は孤高そのものであろう。

結氷

池底に積むもの透ける氷かな

氷の上を落葉が走ってゆく。

酒船石に刻まれたような模様をした流水装置から落ちる水は凍ってないが、それを受ける大きな蹲踞のような小さな池は凍っている。池の底には落葉が溜まっていて、ここ数日の寒波でそれらを閉じこめたまま凍ってしまったようだ。
さながら夏の花氷のように、内部が透けてちょっとした造形である。
幼児が氷に触れたくて池に下りようとするが、水面までが遠くてもどかしそうに見ているしかない。

ランデブー

上弦のつかずはなれず寒昴

冬の星の代表はオリヲンだが、昴もまたいい。

高度はより高く、首を真上に伸ばさないと見えない。
この二三日は中天あたりで、ちょうど上弦の月と仲良くランデブーしているように見える。
凍星、寒星、荒星。
どれも冬の痛々しいほど怜悧な星の輝きを表している。

オリオン冴ゆ

生駒嶺を越えて凍雲尾を引ける
凍雲の昏き底よりJAL機かな

抜けるような空。

耳が切れそうな空気である。
飛行機雲が縮れて薄く広がり、その先に冴え冴えとした昼寒月が中天にかかっている。
生駒から黒い雲が伸びたかと思えば、伊賀の方へ流れてゆく。東山中を通れば雪を降らせるようかである。
いっぽうの葛城と言えば、相変わらず雲の流れが乱れて里に雪時雨をもたらせている模様。
今日は鳥もひっこみがち?
コゲラ、アオジ、エナガ、四十雀、ツグミ、白ハラ、ベニマシコ、水鳥いろいろ、おなじみヒヨドリ、カラス。

夜は夜で、オリオン、昴が頭上にキレキレである。久しぶりに冬の夜空を見た。

説得力

顎マスクせし内科医のタバコ臭

問診を受けていて、息に煙草の匂ひがしてくる。

外来禁煙を謳っている医者である。
まさに医者の不養生であろう。
酒と煙草は慎むようにと言われても、説得力がない。
心筋梗塞を未然に発見してくれた恩有る医者だから、まあ大目に見ておこう。

生駒夕照

テレビ塔七基の日脚伸びしかな

どちらが言うともなく窓の外を見る。

午後5時となってもまだまだ明るい。
5時半を過ぎてようやく暮れなずんできた。
生駒山に夕日がさして、何基かあるテレビアンテナが輝いた。
外から戻ってくるとき南側から仰ぎ見るのが楽しみだが、なかんづくこの時期の景色が大好きである。