17年の句から(前編)

賀状も出して一息ついたところで、今年を振り返ってみる。

アルバムの校舎は火事の前のもの *
三輪山に鈴の音冴ゆる登拝かな
閏秒あるかなきかの去年今年
投げ独楽の宙に紐解く視線かな
春ごとの神のまぐはひ囃したて
朱印所の小窓閉ざして春火鉢
一瞥をくれて再び恋の猫
梅切り貼り桜切り貼り春障子
分骨の日取り定まる彼岸かな
初花の車窓となれる赴任かな
春装の小町通りにあふれたる
粉もんの軒を借りたる氷菓売 *
営業職なれば靴まで更衣
開け放つ牛舎突き抜け夏燕
むき出しの牛舎の梁の扇風機
万緑の見渡すかぎり寺領とや
参道の商家廃れて軒忍
酒船石涸るるにまかせ竹落葉
頬杖の手に握らるる扇子かな
百日紅ごと売りに出て二百坪

*のついたものは、結社の雑詠鑑賞でとりあげられた句である。
いつもなら前半後半それぞれ十句としていたが、いろいろ並べてみるとこの前半は比較的好調で、私個人の傾向がわりにはっきりと浮き出ているような気がして、好きなものばかり二十句となった。
なかでも、好きな順番で並べると、

一瞥をくれて再び恋の猫
梅切り貼り桜切り貼り春障子
百日紅ごと売りに出て二百坪
アルバムの校舎は火事の前のもの
初花の車窓となれる赴任かな

深刻に自己を見つめるというのではないが、それでもやはり主観は捨てきれないもので、客観写生に徹しきれない自分がいる。それを肩の力をぬいて軽くというか、さらりと詠めたのはよかったのではないか。花鳥諷詠、客観写生を標榜している結社において若干異端にあると自覚しているが、こうした好きな句がもっと数多く詠めるようになれば、それもまた吾なりと思うのである。

“17年の句から(前編)” への4件の返信

  1. 今年も一日一句、毎日楽しませていただきました。
    秀句が多く選ぶのに迷います。
    私自身が好きな句、そして映像が浮かぶ句を基本に選ばせていただきました。

    三輪山に鈴の音冴ゆる登拝かな
    春装の小町通りにあふれたる
    開け放つ牛舎突き抜け夏燕
    酒船石涸るるにまかせ竹落葉
    百日紅ごと売りに出て二百坪

    1. 今年も毎日おつきあいいただきましてありがとうございました。叱咤激励とうけとめて何とか踏ん張って来れました。
      なかなか思うとおりに詠めなくて、自信をなくしそうになることもしばしばで、本当にありがたいことです。
      一度、送信ボタンを押したつもりが押し損なって、翌日気がついたとき焦ったことも愛嬌として勘弁してください。
      来年は安定して詠むことが目標です。さらにおつきあいください。(まだ今年は続きますが)

  2. 年末年始は荒れ模様とか。
    ここ数日の株式市場は高値もみ合い。
    そして本当に来年は犬が笑ってくれるのだろうか。
    泣いても我ってもあと数日。
    貴重な時間を大事にしたいもの。

    アルバムの校舎は火事の前のもの 

    そう!我が母校は未明に火事に見舞われました。
    我々の高校時代は正に疾風怒濤の幕開けでしたね。
    瞬時にして白線帽の高校時代に思いをはせております。

    1. 卒業アルバムには旧校舎は映ってないと批評されましたが、私の記憶のアルバムにははっきりとあの木造校舎が見えています。
      正門を入ってすぐの音楽教室ではピアノの断末魔が響き渡ったことが頭から離れません。

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