風来坊

蓑虫の顎でまかなふ衣食住
鬼の子のハンギングして何せんと
蓑虫の倦みて糸吐く引きこもり

冬になって葉が枯れてくるとよく見える。

蓑虫の蓑は枝にしっかり繊維を巻き付けてあるようで、簡単には外れない。
その蓑は、葉っぱや枝の繊維を己の分泌するもので固めたものだから、和紙のような構造をしているのだろう。葉っぱだけでできているのもあれば、茶柱のような細かな枝を貼り合わせたようなものもある。
冬の間はこのように、しっかり枝に固定されているが、今時分は昼間はあの蓑にくるまっておとなしくしていて、夜に葉や枝などを食べるために活発に活動しているらしい。
ときに糸を長くたらしているところを見たりするが、さらには袋から顔だけを覗かせているときもする。見ていると、なかなか固そうな顎に恵まれているようで、エナメル質の頭部がまるっこくて可愛い。
腹が減れば顔を出して葉っぱをかじればいいだけだし、自分の唾液で作った蓑のなかにいるだけで衣食住にはまったく困らない。
「蜘蛛の糸」のカンダタとちがって、糸に追いすがってくる亡者もいなければ、再び地獄に落ちる心配もない。
ただ風来坊よろしく風に揺られていればいいのである。

ただ、人間、とくに子供は残酷である。
蓑にくるまって身を守っているのを強引に引き出そうという遊びの対象にもなる。

蓑虫のチューブしごかれピンチかな

蓑虫の顔を見ようとするにはあの袋を裂けばいいのだが、しっかり繊維で固められた袋は子供の手には負えない。どうするかというと、蓑の尻から押し出すようにして顔を出させるのである。ちょうど絵の具の最後を絞るように、尻の方からしごいていくのである。用心深くやると、仕方なく顔を出してきたところを御用となるわけである。

“風来坊” への2件の返信

  1. そう言えば最近蓑虫を見たことがありません。
    観察がとても詳しいので蓑の成り立ちが良くわかりました。
    小さな虫も日夜努力をして命を繋いでいるのですね。
    それに比べ私。
    暑さと気だるさで怠け放題の自身を鼓舞し今日は真昼間の講演会に。
    演題は『よみがえる伊勢斎宮跡』(古代都市と王朝文化の再現)
    伊勢神宮から20キロも離れた地に東西2K、南北0.7K、総面積137haの広大な古代都市があったという驚き。
    その幻の都の再現に関わった調査研究の立場にある学芸員と建物建築工事現場の専門家の二人のお話でした。
    昨年秋、総工費約5億円かけて正殿(入母屋屋根桧皮葺)西脇殿(切妻屋根桧皮葺)東脇殿(切妻屋根桧皮葺)の三棟が復元されました。

    身体も心も緩みっ放しの日常に少しカツを入れられました。

    1. 外来の寄生虫にやられて西日本では滅亡寸前だそうです。
      冬になると枯れ木にぶら下がってるのでよく見かけたものですね。
      雌雄それぞれ異なった生態を知れば、なんと儚い生き方を選んだものよと思います。

      前回は立ち寄った程度なので、斎宮へはもう一度行かねばと思ってます。地味な役割を担った存在ですが、朝廷と伊勢を結ぶ具体的な貴重な遺産ですからね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください