インスパイア

稲架の穂の奥にのぞけるあをさかな
曇天に黄を放ちたる粟立草
葛咲いて泡だつ花とせめぎあふ

散歩の歩を菜園まで伸ばした。

帰りは少しの上り坂とあってきついものがあったが、休み休みしながらいつもなら十二、三分のところを倍かけてようやく家にたどりつけた。
しかしながら、久しぶりに目に飛びこむ景は新鮮なものがある。ふだんは見逃しているかもしれないものにも心が動かされる。
今日の処は「色」であろうか。
日の恵み、風の恵みを受けて熟成が進んできた稲架の色合いにも近づいてよく見ると、奥のほうにはわずかな緑が残っている。かと思えば、曇天にかかわらずというか曇天のなせる業か、背高粟立草の黄色の鮮やかなこと。思わず目をこらしてしまうのだった。
荒れ地での葛と粟立ち草の縄張り争いも見ものだった。さて、どちらが征するか。

手刈りならでは

昨日までなかりし稲架の匂ひけり

一日にして風景が一変した。

機械の助けもあるのだろう、半日で稲刈り、稲架組み、稲架掛けが終わり、辺りにかぐわしい匂ひを放っている。
その周りのまだ稲刈りの済んでない田には、趣向を凝らした案山子が何体も出現していかにもこの季節の景。
機械化が行き渡る世の中で、手刈りならではの眺めが楽しめるのも嬉しい。

赤と銀

稲塚の影を濃くして群雀

くっきりと稲架の影を落とす秋日和。

巡らせた表裏が赤と銀のテープがわずかの風にも揺れてキラキラと輝く。
賑やかにも雀たちが群れては、人の気配に去って行く。
美しい日本の秋の光景である。
稲架を懸けて一週間以上はたつだろうか。この先しばらくは楽しめそうである。

入荷待ち

掛稲の緑うつろふ日和かな

稲架三日目。

早くも色褪せて茎も葉も籾も同じような色になってきた。三日続きの晴天で順調に乾し上がっているようだ。
苅りとった田はまだ序の口。短い日を逃さじとコンバイン、集荷軽トラが公道をせわしく行き来している。
豊の秋の光景はいつ見ても心和むものがある。
そして、格安のもみ殻くん炭を予約している農協からは、間もなく入荷の連絡が入るはずである。

若き移住者

不揃いにして痩せたるが稲架にあり

若い人が山村に永住を決めた。

初めての収穫だが、鹿やイノシシに蹂躙された晩稲の棚田はみるだに哀れ。残った稲を干す稲架もサイズがばらばらでみるからに素人のものと分かる。
ただ、本人たちはいたって楽観的で、来年はしっかり猪垣対策しなきゃと言いつつの収穫作業を楽しんでいるようだった。