勲章

はらからを叱る長女の汗匂ふ

今日も汗をいっぱいかいた。

汗というのは貴いものだと教わったが、近年は不快なものの代名詞のように思われてはしまいか。
やれ、制汗剤だの、汗取りシートだの。

ぐっとさかのぼって、近所にひとつ年上のお姉さんがいた。美人ではけっしてなく、父母を助けていろいろな家事をこなしているので顔は真っ黒けに灼け、あか抜けたところなど何一つなかったが、多くの弟たちを一喝で黙らせる肝っ玉姐さんであった。
ただ、他人にはちょっと人見知りするというのか、シャイなところがあって、近づくとすっと避けるようにするのだ。
たぶん、そのわけは彼女の体質によるものだと、小さいながらも理解できた。彼女の汗がすえたような匂ひを放つのだ。「わきが」というやつだろう。
ただ、働き者の彼女を揶揄するものなど誰もおらず、いま思えばあの匂ひは彼女の勲章だと思えるのである。
あの日から60年。彼女や一緒に遊んだわんぱく小僧はいまどうしているだろうか。

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