吾妹の十日

老いぬれば美しき悪しきのおぼろかな

母がことあるごとに繰り返していた昔語り。

とくに覚えているのが、生後十日で命を落とした妹の話である。
大地震が襲ってきて家が倒壊し、座敷奥に寝かせていた赤子を連れ出すどころか、自分の身ひとつ守るのに精一杯だった様子を何度も聞かされた。
当時、医者にも見放されるほど衰弱していた私が、本来妹が飲むべき乳をふくませたら忽ち回復に向かったとも。

晩年になって、赤子を救えなかった悔恨の言葉は少なくなったようだ。
ただ、今も生きていて、こたびの熊本地震を聞いたらばきっとまた昔に戻って、地震の怖さを繰り返し語ったことだろう。