尾羽うちからし

一山の弁天池にかはせみ来

観光客はだれもが国宝の塔に興味が向いているので、山内の小さな池には興味をもたない。

ただ、かはせみフリークの身には一声ですぐに気づくのだった。
振り向くと、池に突きだした弁天堂のあしもとの細枝に翡翠が隠れたようだ。
雄雌の判別はつかなかったが、この時期は、恋愛時期にあたり、だいたい雌が雄のテリトリーを訪ねて配偶者として適しているかチェックするのだ。
まずは餌をちゃんと取ってくる甲斐性があるかどうかが決め手で、ただ求愛をせまるだけではだめなのである。人間よりはよほど現実的なようである。
職員にたずねてもこの池で翡翠を目撃したひとはあまりいないようだった。
東大寺裏手に大きな溜池がいくつかあって何回か目撃しているので、そちらからやってきた可能性が大きいとみた。
翡翠は夏の季語であるが、求愛の仕草といい、子育ての特徴といい、春のほうがみどころは多い。初夏は、雛まつりといって、巣穴から出てきたばかりの雛たちが枝に何羽も並んで親から餌をもらうシーンが人気だ。八月から九月頃まで、何度も卵を生んでは子を巣立ちさせる。
子育て中の親、とくに雄は餌取りに追われて文字通り尾羽うちからして、気の毒なくらい惨めな姿で同情を禁じ得ないのである。
父ちゃん、がんばれ。