舌仕舞いつつ

下闇に暗む眼の閻魔堂

天武天皇ゆかりの矢田寺へ。

山門から200余の急な石段を登ってようやく諸堂にたどり着く。
着くやいなや、ホトトギスが迎えてくれるは、開花したばかりの沙羅、泰山木の花、そして一万本の紫陽花。
紫陽花の咲き満つ谷筋に入ると、折から降り出した雨に紫陽花たちも生気を取り戻したかのようだ。
後ろに控える丘陵をめぐれば西国八十八カ所を模した遍路道もある。行程1時間半だというので、八十八番目、すなわち結願の薬師如来さんだけお参りして御利益を願うという厚かましさ。

この六月だけ開帳されるという閻魔大王さんの前では、脇侍もまじえたあの世の裁判を詳しく解説していただく、いわば絵解サービスもあって、ひたすら腰を低くして聞くばかり。閻王の黒い眼の底知れなさに思わず身震いするのであった。

青葉闇

下闇の侵す鑿跡百度石

伊勢を向く遙拝所がおぐらい。

天照の神の方向が下闇に覆われているというのもおかしな話だが、遙拝所のすぐ下が崖になっていて大きな樟が視界を遮っているので、冬になってもこの暗さなんだろう。
神社は八幡さん。百度石と刻まれた文字にも青葉が翳って彫りがより深く見える。