聞く耳

侘助の庭の垣根の縄傷む

茶室の入り口脇に八畳ほどの広さの前庭がある。

四つ目垣が張り巡らされ、しっとりとした苔の庭に侘助が小さな花を下向きに咲かせている。
柴折戸も竹を組んだだけの簡素なもので外界と隔てる意匠はなく、しかも立て付けがゆるりというかゆったりとやや傾き加減の趣がなんとも心地よい。
苔には鳥が落としていったものが芽生えたと思える小さな万両が早くも実をつけていて、緑のなかの紅のアクセントが効いている。これも意図したものなのかどうか分からぬが、見事な意趣である。

ここ、吉城園は県の所有であるが、近々民間のディベロッパーに売り渡され高級旅館に生まれ変わるという。
東大寺敷地に隣接して一帯の緑の一画をなしていて、大仏殿とちょっと離れただけなのにうって変わって閑静なところが魅力なのだが、反対する声を無視して県は強行突破の姿勢を崩さない。
県立高校の統合問題も住民からひろく意見を聞くことなく、一方的に方針を決めては断行するらしい。
宿の少なさ、公立学校の冷房化率では全国ワースト、あいかわらず時代遅れのお上主導によるイベント行政。
県政の貧弱さは近畿六県のなかでも際だっているといえよう。