思い出せない

畝傍山まどかにいます冬の靄

今日の盆地は終日冬霞がかかっていた。

耳成山はもともとどこから見ても円い形をしているのですぐに見分けがつくのだが、今日天皇皇后両陛下が参拝された神武天皇陵のおかれる畝傍山は見る角度によっては鋭い稜線が立っていたり、台形のような形にも見えたりとかして、遠くからだと確信をもって言い当てることもできないことがある。
まして、今日のように青垣のすべての山襞から雲がわきたつて、低い雲が盆地全体を覆うような重苦しい空気に包まれてみると、北東方面から見た畝傍がまるで耳成と同じように円くみえてしまって、いったいどちらがどちらださえも判然としなくなる。

終日の靄は夕方にも美しい景色を見せてくれた。
飛鳥からの帰りの西の空、薄靄の葛城山に夕日が沈みかける、どこかで見たことがあるような日本画の夕景であったが、誰のどんな絵だったかしきりに思い出そうとするのだが、固い頭にはそれ以上の追憶を許されないのであった。