帽子が似合う人

冬帽の座高の高き男かな
冬帽の黒づくめなる緒形拳
冬帽の影の銀幕よぎりけり
冬帽を脱げば暴るる寝癖髪
退院してからが闘ひ冬帽子

座高の高いひとの後ろの席は迷惑する。

あるいは礼儀正しい人で、威儀を正すように背筋を伸ばしてるのかもしれないが、映画館などでは背もたれにだらしなく凭れていただくほうがむしろ場にふさわしいと思うのだが。
帽子愛用派としては、こういう場合帽子を脱ぐようにこころがけているのだが、なかには帽子を被ったまま平気で座っておられる御仁がおる。室内では男は帽子を脱ぐものとされているが、最近はそれもやかましく言われないようで、それは帽子が紳士のものだけではなく、子供から老人まで、夏だってすっぽりかぶるなどファッションとしても、ふだん着としても広く使われるようになったからでもあろう。

かつて出会った帽子の似合う人として緒形拳をあげる。一流の俳優というのは遠くからオーラを放つもので、新幹線の乗り換え口ですれちがった全身黒づくめの男にただ口をあけて見送るだけだったことがある。
冬帽ではなかったかもしれないが、中折れ帽も黒なら、ジャケットもシャツもズボンも真っ黒。すらっと伸びた長い足に釘付けとなってしまった。同じ俳優で上原謙などもいかにも似合いそうだが、男臭さという点では絶対緒形のほうが魅力的である。
最近の人気俳優で、帽子が似合うと言えばはたして誰なのだろうか。すぐには思いつかない。