さし込む光

北窓を開けば寝屋の黒光り
北開く家の光の雑誌棚
北開く壁に農事の暦かな

今どきの家に冬季に北窓を塞いだりすることはあるまい。

かつての日本家屋はすきま風が入るのは当たり前で、冬準備として北側の窓に目張りをしてすきま風を防いだものという。
したがって、「北窓を開く」というのは、春になって、今まで閉じこめていた北側にある部屋の目張りを剥がしたり、立て込めてあった雨戸を開いて、北向きの部屋に明るさが戻ってくる喜びを表す言葉である。
古民家や古い農家などでは、北側というと納戸があったり、寝屋を配したもので、叔父の家では寝室に町では聞いたことのない「家の光」なる暦などがかけられていた記憶がある。
当時から今日まで、「家の光」とはてっきり天理教などの宗教団体の類いとばかり思っていたが、確かめてみるとなんとJAの文化・出版事業を担う「家の光協会」のことだった。山奥で細々と営む半農半林のつましい暮らしに、ラジオ、新聞と並ぶ貴重な情報源だったのであろう。
北窓を開けるのと同様、何百年と続いてきた山村の変わらない暮らしに新しい光をさしこんでいたとも言える。