牙を剥けば

僚船の無線の否や卯波立つ
西よりの蜑の恐るる卯波かな
遠富士に帰港急かるる卯波かな
水難の碑の半世紀卯波の海
卯波立つ校歌に美しき伊勢の海
卯波立つ浜は名うての二枚潮
上げ潮に川さかのぼる卯波かな

海のない国なので、過去から引っ張ってきた。

誓子が病気療養中長く伊勢にいたことは有名だが、そのおり戦後新制高校ができて校歌の作詞を依頼して誕生したのが母校の校歌である。70年近く歌いつがれてきたわけであるが、そのふだんは優しい海もときに牙をむくときがある。
あれは昭和30年頃だったろうか、一見何の変哲もない砂浜で、中学生数十名が水泳の授業中に亡くなった悲惨な事故があった。近くの川から注ぎ込む水と海の潮が足許で二枚潮となって流れていたのが原因とされるが、以来遊泳禁止となって人が寄りつかない浜となったが、今でも忘れられずにいるだろうかとちと心配である。