配達の氷痩せゆく大暑かな
切り氷を配達するシーンはもう見られない。
製氷庫から切り出された氷の板を麻布にくるみ、リヤカーやら運搬自転車に載せて、一軒一軒の氷型冷蔵庫に配達する氷屋さんだ。
たいていの客先は一日一貫の切り氷で間に合うので、麻にくるんだ氷の板をその場で一貫目に割って納める。それには、鋸を使うわけだが、全部を鋸でひいていては無駄がでるし時間もかかるので、ちょいと角に筋目を入れそこへ鋸の背をぐいと押し当てると見事にぱかんと氷が割れる。これを急いで冷蔵庫に納めるわけだ。
氷型冷蔵庫は昭和30年代の中頃まではあったと思うが、電気冷蔵庫の普及で一般家庭からも姿を消し、それとともに製氷業界も大きく変わったと思われる。
少年の頃、マイ自転車が欲しくて、一夏を氷屋さんでアルバイトをしたことがある。運搬車に氷8貫目ほどをを積んでよろよろと各戸を回るのだが、受け持ちエリアは昔から花街があったところで、朝のお姐さんのはっとする姿を垣間見ることもあった。
首尾よく手に入れた自転車は、輸出用のウグイス色の細身ボディで軽量スポーティタイプ、タイヤも腹が白い細身で当時としてはなかなかの洒落ものだ。通学もこれで通したが、その後あれはどうしたのだろうか、今となってはさっぱり思い出すことはできない。