伝統守る店は

新蕎麦の熱をくぐればかほりたつ
新蕎麦の切る音拾ふラヂオかな
割箸を割くももどかし走り蕎麦
岩峰の里に一ㇳ日の走り蕎麦
旅の誌に載らぬ店有り走り蕎麦
新蕎麦の熱き蕎麦湯の好ましく
山降りて温泉の身のほてり走り蕎麦
相席で困ることなし走り蕎麦

新蕎麦が待ち遠しい頃。

なかでも旅先で食った、思わぬ店での思わぬ味の蕎麦が記憶に生々しい。
それは、蕎麦の味だけではなく、出汁の加減であったり、座敷の佇まいであったり、お通しのその地方のものであったりと、さまざまなものを伴っているのが普通で、「うまいなあ」と思った店はやがてテレビなんぞに出て有名になってしまうと二回目に行ったときにはがっかりすることもあるのだけど、やはり伝統の味を守っている店が今でも頑張っていると聞くとまたまた出かけてみたくなる。
上田、あるいは小諸、どちらの店も健在だろうか。

予定の綻び

新蕎麦を打ってくるると誓ひしに

定年になったら蕎麦打って食わせてやるよという友がいた。

生涯学習センターかなにかで蕎麦打ちを習い始めたばかりだと笑いながら。
高価な道具も買い揃えて張り切っていたようだ。
書や水泳、山歩きなど他にもいろいろ目標があったらしい。

その彼も還暦を前に儚くなってしまった。

「新蕎麦」で創作してみた。

走り蕎麦此処と定めて十余年
路ひとつ入った店の走り蕎麦
此処だけはテレビも知らず走り蕎麦
限定の新蕎麦打って早仕舞
新蕎麦の催促メール電話でも
顔見せを兼ねて相伴走り蕎麦