薬石の効

六文銭バット持たせて春の雨
肩広の骨を拾うて春の雨
強肩の体躯棺に春の雨

「春雨」と「春の雨」というと似ているようで違うような気もする。

春雨は文字通り、「濡れていこう」の春雨である。いよいよ暖かさをもたらし、ものの恵みをもたらすという明るく、艶やかなイメージが伴う。一方、後者は暦が春になったばかりの頃で、それまでの雪に替わるものとしての雨というイメージであろうか。
実際には、ホトトギス歳時記では同じ項に並べられているので、あくまで私見ではあるのだが。

高校の同窓生が亡くなった。
一年近く格闘したが、野球で鍛えた体も病には勝てなかったと聞く。
幅広の肩も骨ばかりになって、棺におさまった姿を想像する。

ワイパー

春宵の雨の予感の香りかな
ワイパーで拭へぬ曇り春の雨

もうすぐ雨がくるというサインだろうか。

土の香りがいつもより強い。
今日は南から暖かい風が吹いて雨混じりだという予報だが、宵になっても降ってくる気配はない。ただ、香りだけは何時雨がきてもおかしくはない感じなのだが。

外出から戻ってきたら家の近くまで来てようやく本格的な雨が降り出してきた。今度は、フロントガラスの油曇りがワイパーで掃いても掃いても消えるどころか広がる気さえしてくるのだった。