姿勢

松蝉の楽の瀬音にまさりたる
春蝉の何処と知られず奏しけり

吉野へ出かけた目的は別にある。

兼題「松蝉」というのをこの耳、目で確かめるためだ。
先週のNHK俳句・夏井いつきの回で、兼題の麦畑をゲストですら実際に自分の目で確かめに行ったというのに、司会者自身がサボっていたのには驚いた。実は、わが結社では兼題に対する姿勢をきつく戒められている。これを真面目に守っていたら、とてつもなくカネと時間のかかる趣味なのは間違いないのだが。

さて、季題「松蝉」の傍題に「春蝉」があるが、季は夏である。
初夏に鳴く蝉であるが、平地では聞いたことがない。あるいは、鳴いていても耳には響かなかったということかもしれない。例句を調べるとどうやら、高い山、深山が浮かんでくる。
そこで、吉野の宮滝、国栖まで出かけることにしたのだが、僅か一時間ほどの滞在での発見はかなわず、ユーチューブで確かめた、し〜んと耳鳴りのようにまといつく様子をヒントに想像しながら詠んでみたのが掲句である。