寂しい堰堤

野暮用のつもりで出でて桜狩り

奈良はこと桜に関しては面白い県である。

大和川を本流にした支流があれほど多いのに、堰堤に桜が植えられているのは稀なのである。
たまにあっても何十本も連なっているわけでなく、ところどころ10本ほどが植えられてる程度だし、そのうえ両岸に植えられたところなど殆どないといってよい。
桜の堰堤というのは両岸の桜がその枝を接するばかりにアーチを形成してはじめて桜の名所になるのである。
したがっていかんせん大河では趣も大味になってしまうのだが。

奈良の堰堤に桜の名所がないのは、寺社仏閣などすでに名を得た名所に遠慮して新たな桜名所を作るのをはばかっているためではないだろうかとさえ勘ぐってしまう。
実際には昔から氾濫をおこす川の周りには人家が少なく、桜など植えてもしょうがないというのもあるだろう。ただ、そんな畑に囲まれた川にも桜はおろか柳もなんにも植えられてない。あるのは、堰堤にではなく河原にであり、それも上流から流れてきた種や苗が根づいたものだ。およそ殺風景といったらこのうえない。自転車専用道も同じで走っていても実に味気ない。

また、「奈良の寝倒れ」という言葉がある。
要するに、あまり外を出歩かない県民性がある。
おらっちの川を桜の名所にして人を呼びたいなどという酔狂な人も少ないのだろう。
なにしろ一人あたり最も飲食店の少ない県なのである。そんな風に数字で聞かされるより、実感として外で食ってみたいと思わせる店がまったくないのだから。