尾根小屋の風に氷柱のあらぬ向き
尾根渡る風に馴れにし氷柱かな
尾根小屋を閉めて氷柱に見送らる
NHK/BSの「新日本風土記」はよくできた番組で録画をとっては時間のあるときに見ている。
だから、ときには二ヶ月も前の番組を見たりもするが、特別季節に連動しているわけではないので気にはならない。というのも、毎回長い時間をかけて制作した番組だからだとも言える。NHKならばこその製作姿勢であり、受信料を払う価値は十分にある。このような良心的な番組がほかにもいっぱいあるのがNHKの魅力で、今後もいい番組を送り続けてくれることを期待している。
掲句は南アルプス地方の厳しい暮らしを追った番組をみて詠んでみたものだが、農鳥小屋の主人がシーズンを終えて里に降りる日、小屋のつららが尾根に巻き上げる風によってあちこちあらぬ方向に向いているシーンが映し出されたときの様子だ。海岸の松が長年の強い海風によって一方に傾く「磯馴松(そなれまつ)」のようで、加えて吹き上げる風にめくりあげられているムーブメントも加わったアートと言っていい形とも言えた。
吟行に行かずとも句材はあらゆるところにある。