口吻

食み跡の乾くひまなき熟柿かな

毎日ちょっとずつつついているようだ。

すっかり熟した柿に小さな穴があいて、それがちょっとずつ広がっているのだ。
穴の大きさからすると、ヒヨドリ以下の大きさの鳥だろう。
今日はまた、そのあいたところに蜆蝶のように小さな蝶が二頭、長い間口吻を突っ込んだままだ。冬越しに供えようというのかいつまでも吸い続けている。
たとえ一個でも、柿の実が多くの命を養っているのだ。

早生は渋か

透けるかと紛ふ熟柿の濃赤錆

急に冷え込んできた。

斑鳩の里などを歩くと、木に成ったままで収穫されない柿が多く見られる。
鳥にも食われないのか、傷一つとない柿がまるまる熟れてもう溶けそうなくらいに色を濃くしている。しかも、向こうが見えるのではないかと思うほど透けるような色である。これを和菓子の水饅頭や水羊羹みたいだと言ったらオーバーか。

この深い赤色を何と呼べばいいのだろうか考えてみたが、なかなかいい名前が浮かばない。それこそ「熟柿色」なのである。
有田焼の柿右衛門の「柿」だって、その元は独特な赤の色合いが熟柿に近いところから取ったのではないだろうかと思えるほどだ。

今は、天理の辺りの「刀根早生」の東京、大阪方面への出荷がピークだそうである。これも渋柿だが炭酸ガスにくぐらせて渋を抜いてあると言う。先日、飛鳥の道端で買った柿の半分以上は渋柿だったので、あれはきっと手抜きして売っていたに違いない。

入会地

山柿やここはかつての入会地

山柿というのだろうか、雑木林のなかに朱色に熟した実が鈴なりになった柿の木を見ることがある。

ここはかつては入会地で人の手がきちんと入っていた山かもしれない。それが後継者難で放置されたまま、ただの雑木林として埋もれようとしているのではないか。でなければ、雑木の中に柿の木が一本今も立派に実をつけるというのはどうみても不自然だからである。