川端に飯粒沈む秋の水
関西には「川端(かばた、また、かわばた)」と呼ばれる水場が多い。
清冽な伏流水が豊富に得られる土地ならではの風景で、有名なところでは滋賀県高島市針江地区、梅花藻でも知られる彦根市醒ヶ井地区などがある。
針江地区では比良山系の伏流水が各所に湧いて、これを飲料や炊事などの日常用水として巧みに利用されている。伊吹山系の伏流水が豊富な醒ヶ井では鱒の養魚が盛んに行われ、五十年近くも前に遠足で訪れたことが懐かしい。
同じように、関西以外でも鳥海山麓など豊富な湧水があるところでは、集落で共同利用することも見られ、上は飲料、中は炊事、下は洗い物用として利用する暮らしぶりがいまだに守られているところもある。
伏流水というのは水温、水量とも一年を通して変わらず、夏は冷藏庫の、冬は温水器代わりのエコライフを支えるが、水澄む秋は大根や芋を洗っては菜屑が流れたり、畑仕事後の鍬などの泥を落とてもすぐに透明な水に戻ったり、ひときわ趣が深い。
ここ、大和盆地には扇状地でもなく伏流水と呼べる湧水はないが、洞川など山間部に入れば大峯山系からしみだす名水が得られ、それを利用した豆腐などの特産物が知られているが、共同水場という風景は今はもう姿を消したのであろうか。