折り合い

秋の蚊をどこ吹く風の猫の耳

夕方になるとわんさか出てくる。

ホースの腕に、如雨露の腕に、数秒動かないだけで小さくちくっとくる。
利き腕が空いてないから打つこともままならないが、それでも何匹かのうちの一匹は仕留めることができる。
いつものことだから腹を立ててもしょうがない。これからも蚊とのつきあいは長そうだから、適当に折り合いをつけていくしかあるまい。
居眠りしていても耳だけ器用に動かす猫を見習いたい。

急降下

禅寺に秋蚊打ちをる在家かな

気温が急降下して蚊がおとなしくなったようだ。

どこか弱々しく、簡単につぶすことができるようになった。
唐招提寺では、高名なお坊さんが弟子たちに殺生を戒めた故事から有名な「団扇まき」の行事が生まれた。
修行の徒でもなく俗世の人間としては、まるで親の敵のように蚊や蝿、ゴキブリの類いを追いまわしているが、せっかくの貴いお詣りも不信心なことである。

侮るなかれ

腹一杯吸うて討たれし秋蚊かな

思わず我が腕を打った。

小さな痛みを感じたからである。
とたんに腕に自分の赤い血が散った。
たっぷり吸われるまで気がつかなかったようだ。

秋蚊といっても、このごろの秋蚊は決して侮ってはいけない。夏も秋も変わらない力を持ってるので、歳時記としては困った話だ。