提寺

金堂の燭灯りたる良夜かな

今年はまれに見る月だった。

とくに宵のはじめは雲ひとつかからず、文字通り鏡のような輝きに魂が吸いとられるそうになった。
何度か外に出て仰いでみたが、夜遅くなってからちょっと雲がかかっても、それはそれでまた風情を楽しむことができた。
やはり、空気が澄んで、月がクリアになると、心まで澄んでくるように思え、まさに良夜である。

曇りから晴れへ

金堂の御開扉さるる良夜かな
御開扉の金堂灯す良夜かな
天平の甍あまねく月明り

今日の唐招提寺は夕方5時から無料で開放される。

観月讃仏会が行われる御影堂の庭は有料だが、肝心の和上像は拝観できないうえ、会式の模様も前庭からでは遠く、燭の灯りだけで行われるので暗くてよく見えないというのが実情である。
だから、月の昇るまでの時間、ところどころの燭だけでほの暗い境内の好きなところで時間をつぶせばいいのだが、何と言っても最高の贅沢は国宝の金堂が特別開扉され、中のこれまた国宝の三尊像が灯りに照らされてそこだけがまばゆいばかりの光を放っている空間である。ここは人も少なく、誰に邪魔されることなくゆったりと浸れる。
照らされた三尊は正面の南大門からもよく見通せて、遠くからも荘厳な雰囲気に引き込まれる。

やがて観月会が終わる8時頃には月も高くなり、境内の松林のうえにようやく顔を出し始める。三尊の尊いお姿を堪能した後は、日本一の月が昇り境内にもほのと光がさしてくる。
月の光を浴びた境内の砂利と暗い建物の陰影とが絶妙なコントラストをかもしだし、幽玄の世界に引き込まれるようである。

奈良盆地は午後3時頃から雲が薄れてきた。
これなら今夜は間違いなく良夜であろう。