芭蕉四態

地に触れて破芭蕉とはなりにけり
芭蕉葉の己が重みに耐へかねつ

大きな芭蕉の葉が垂れている。

自分の重みで先端が地面に突くほど折れ曲がり、それと同時に葉脈に沿って裂け目が入り、破れ始めているのだ。
葉の色が青々しているだけにその痛々しさは目に沁みる。

芭蕉と唐招提寺とは名句「若葉して御目の雫拭はばや」で有名だが、実は寺務所奥にある芭蕉の葉があって、毎回訪れるたびに人知れず自分だけの吟行コースに入れているのだ。「芭蕉」は秋の季題。傍題に「芭蕉葉」「芭蕉林」がある。青々と広がった風情のどこか脆弱な感じを詠むわけだが、それに裂け目が入って破れさらに哀れをますものを「破(やれ)芭蕉」で同じ秋の季題。蓮が破れたのを「敗荷(やれはす)」(破れ蓮)と言うが、これも晩秋の季題だ。
台風や雨が続いていたので、あの大きな葉が揺さぶられでもしたのだろうか、すでに何枚かは破れかかっていたのを詠んだもの。
初夏には「芭蕉巻葉」で玉を結んでいるもの、夏は「芭蕉の花」があるがこれは地味な花だし、タイミングがうまく合わないとなかなか見つけられないかもしれない。それとも南国の方へ行けばあちこちで見られるのだろうか。