自然循環

炭を焼く生計の株の蘖ゆる

櫟というのは成長が早くて、10年もすれば炭焼きの材料として使うことができるそうである。

さらにまた切株から何本も若い芽が吹き出して、それが8〜10年すればまた炭焼きの材料となる。
こうして10年分くらいの山を持っていれば炭焼きの材料には事欠かないわけである。
櫟はまた腐葉土のいい材料となる。一年も寝かせれば混ぜ物のない安心な腐葉土が手に入る。
サツモイモが特産の川越では畑の近くに櫟の林をもうけ、その落ち葉から腐葉土をつくり、火山灰土の関東ローム層を豊かな藷畑に仕立て上げている。
炭といい、腐葉土といい、SDGsの鏡のような自然循環にかなったサイクルである。

古木の風格

樹脂埋めし洞の古木に蘖ゆる

佐保川堤の桜というのは大変古い歴史があって、幕末に奈良奉行が植えたのが始まりだとされる。

そのうちの数本がまだ健在で、多くの支柱に支えられて堤に覆いかぶさるように咲いているものがある。
なかには、樹脂の修復跡がなまなましい古木もあって、その根元からは若い枝が伸びたり、蘖さえ吹き出している。
その蘖にも、枝に咲くものとなんら遜色ない形や色の花がびっしりついている。
老いてなお蘖を伸ばそうとする生命力。古木の風格、ここにあり。