しぐれ煮東西

けふの潮けふの風聞け蜆舟
船縁をてこに五体の蜆搔
転がして揺すつてみせて蜆選る

宍道湖の蜆をいただいた。

と言ってもしぐれ煮だが。
これがことのほか旨い。
煮てみればこんなに小さな身に旨さがぎっしりとつまっており、ほんの少し茶碗にのせただけで甘い匂いが食欲を誘う。
浅蜊のしぐれ煮として桑名が有名だがあれはやたら塩辛くお茶漬けでなくては喉を通らないが、これは逆に甘くさえ感じるくらいで蜆の地味な味を十分補ってあまりある旨さというべきか、お茶漬けで流し込んでしまうには惜しい味なのである。
いまや資源的にも貴重な蜆となっているので宍道湖のものなど簡単に手に入らないが、こうして保存のきく食品として流通されるのはありがたいことである。

記憶の中に

教室をぬけて田圃の蜆川

学校のすぐ裏でどういうわけか太った蜆がいっぱい採れた。

遊びのつもりで川に入ってみると、両手ではとても受けきれない量がたちまち体操帽にいっぱいになる。
どうしてあんなところで蜆がいるのか当時はよく考えもしなかったが、今思い出せばこの用水は町の南側を流れる汐入川に通じているからに違いないだろう。
あの田圃はみんなとうに住宅地に化けているかもしれない。あの蜆を食ったのか捨てたのか、それもよく覚えていない今となっては遠い、遠い記憶のなかである。