遡る

青海苔の岸辺に懸かる四つ手網

あをさと青海苔。

恥ずかしながら兼題「青海苔」が出される前は区別あろうとは思わなかった。
あをさは岩礁につく海苔で、青海苔は河口などに生える糸状の海苔。
「あをさ」は冬の季語で、「青海苔」は春の季語。
俳句を初めて詠んだ城ヶ島で見たのはあをさであった。洗濯岩に汐がひいたところを老婆が掻き取っていたのを思い出す。
ところで、紀州の湯浅は醤醢の町として知られるが、その河口には青海苔が揺れそれを縫うようにして白魚が遡る。実際にこの目で見たことはないのだが、青々とした海苔の上をあのか細い白魚が上ってゆくさまが手にとるように目に浮かぶ。かつては「ほまち」と言って老婆などが日銭稼ぎみたいに青海苔を採っていたらしいが、今ではだれも採る人などなく生うにまかせてあるというのはさびしい。