ひとつの奈良

曇天の馬酔木の房の重たしや

枝がたわんでいる。

びっしりと花をつけた枝がいかにも重そうに垂れているのだ。
あんなに小さくて可憐な花でも、集まればそれ相応の重さになるというわけだ。
奈良の公園はいま馬酔木の白、ピンクに満たされている。

春疾風

名園の鹿寄せつけず花馬酔木

馬酔木があるから鹿が入ってこないのではなく、単に垣根でブロックしているだけである。

あいかわらずぎりぎりのタイミングで青色申告・確定申告の提出となるのはおいといて、郵送でもいいところをせっかくだからと提出を兼ねて奈良の一人吟行をしようと思った。65歳以上は無料という吉城園が目的だ。
ここは明治か大正の頃、何の商売だか、とにかく大儲けして羽振りのよかった商人が作った庭園である。ここも間もなく民間に払い下げて高級な旅館になるらしいから、今のうちにじっくり見ておこうという狙いだ。
ここはいつ来ても何かの花が咲いているし、広い庭園はまわりの騒がしさから隔絶されて、聞こえるものは風の音、鳥の声くらいである。
今日はいたるところに白や赤などの馬酔木が咲き、茶花の庭では木瓜がかれんな花をびっしりつけ、枝先には緑の芽ぐみも見られた。ドイツからのハネムーンと思われるカップルには、奈良の馬酔木についていろいろ話を聞かせることができて束の間楽しかった。

それにしても、室内では暖かかったので迂闊にも春の装いで出かけたのがいけなかった。冷たい北風が吹き荒れるような天気で、予定をずいぶん繰り上げて早めの退散となった。