種弾け

河原石積める垣内の鳳仙花
鳳仙花屋根に石載す杣暮らし
爪染むる叔母見たるなし鳳仙花

もうずいぶん減ったろう。

山国熊野の暮らしはかつて林業に支えられていた。集落の男たちは、山主に雇われて、昨日はあの山、今日はこの山へと入り、下草を刈ったり、枝を払ったり、切り出した木を運んだり、川では筏師が河口の集木場まで運ぶ。
どの家も、平屋の屋根に届くかと思える高さまで河原の丸石を積み上げて垣を築き、檜皮の屋根を丸石が抑えていた。
垣のうちには南天を植え、柿を植え、どの家も整理が行きとどき、つましいながらそれなりに身ぎれいに暮らしていた。

林業は今では外国材におされて見る影もなく、男たちは町へ出てしまったが、毎朝男たちがやたら大きな弁当箱を腰に巻いて出かけていった姿が今でも鮮明に思い出すことができる。河原石を載せた家がいくらか残っていたとしても、それは打ち棄てた家になってるかもしれない。

中上健次

氾濫の川や健次が鳳仙花

台風12号のニュースが続く。
紀伊半島一帯に降らせた雨によって各河川が氾濫する画像を見ていたら中上健次の小説「鳳仙花」を思い出した。
健次にしては珍しくある女(母がモデルといわれる)の生涯を淡々と綴った小説だが、古座川のほとりの鳳仙花が小説の終章を締めていた。今頃は豪雨と強風にか細い体を震わせているのかもしれない。