体型

穴ひとつ足せば使へる黴ベルト

作業ズボンが破れた。

一つは現役時代の制服、もうひとつは今ブレーク中のワークマンで買ったもの。
酷使に耐えてずいぶん長く使えたが、このたびの畑仕事で両方ともつぶれてしまった。
そこで膝の屈伸が楽なこれまた昔のGパンを探し出してきたが、どうやら胴囲が大きい。そこで次はジーンズ用の太ベルトを探し出したのはいいが黴の匂い。
誰に見せるでなし、黴臭などすぐに消え去るわいと巻いてみるがやや苦しい。
体型もいろいろ変わってくるといろんなことがあるものだ。

大手を振る

黴のズボン鼻先に立つ車内かな
黴拭うてもとの箪笥の肥やしかな

思わず顔を見てしまった。

小便のしみが黴となったズボンが顔先にある。
電車の座席にすわっていたときのことだ。
世の中には、これほどとなっても無頓着なひとがいるのだ。
それにしても、度が過ぎてはいやしないか。
黴が大手を振って歩いているようなものだ。
背広を着ているので、世捨て人とは思われぬが。

しのぶよすが

黴日記めくりて遺品整理かな
恵贈の主は鬼籍に黴の書架
作り置くカレー三日目黴兆し
二児巣立ち育児辞典の黴埃
黴の香と受動紫煙のなひまぜに
黴レンズかざし胞子の万華鏡
職退いて革という革みな黴に
アマゾンで買うた珍本黴臭き

昔の日記や手帳、手紙の類いは実家に置いたままだった。

懐かしいものもなかにはあるのだが、あえて残すことなくすべて始末して灰にしてもらった。
僕の持ち物も僕にとっては宝物だが、死ねば、遺族にはただのがらくたにすぎなくきっと処分されてしまうに違いない。
たとえば、せめてお気に入りの自句くらい冊子にまとめておけば、それを開いて僕の内面の一部でも知ってくれることがあるだろうか。
最近、もっと自分をさらした句を詠むべきではないだろうかと思うときがある。