トルソー像

登高や業火に焦げし千手仏

昭和蝉丸さんおすすめの松尾寺を詣でた。

斑鳩の里から背後の丘陵を登っていく道は地元の人たちの散歩道ともなっているが、何しろ松尾山の標高は三百メートルを越しているので、その途中にあるとは言え相当な勾配を覚悟しなければならない。
蝉丸さんが法隆寺駅から自転車で行かれたと聞いたが、おそらく途中までであとは徒歩で登られたのではないだろうか。
軟弱な私は車で出かけたが、やはり最後の勾配は大変きつくエンジンには目一杯頑張ってもらわねばならなかった。

もちろん、ここの宝蔵殿に納められているトルソー仏が目当てだが、白州正子の『十一面観音巡礼』で詳しく紹介されているように、火災で頭部や腕など飾り物をすべて焼失した千手十一面観音像のもはや炭と化した一本の木でしかない姿はいかにも痛ましく、それゆえにますます美しく思えてくる。
その深い感慨がなかなか冷めやらず境内を一巡したり本堂にお詣りなどしたが、それでも足らず峰の上にある松尾山神社にまで登ってみることにした。
天気がすぐれないので盆地を見下ろす素晴らしい眺望は得られなかったが、気分はすっきりとして下山することができた。

「高きに登る」は季題「重陽」の傍題で、重陽の節句に高いところに登って酒を酌む故事からきた言葉だが、俳人にとっては必ずしも旧暦九月九日でなくともよく、その底意に「祈り」があれば許されるものとなっている。

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