文化的生活

国宝の多き一国梅雨湿り

国宝の一番多い都道府県はどこか。

まず頭に浮かぶのは京都か奈良かだが、意外に東京である。
これは美術館などが多く美術工芸品が大半を占める。
二位が京都で、建造物では寺院などが多くて全国一。
そして、三位が奈良で法隆寺始め建造物も多いが、やはり仏教彫刻が多いというのが特徴である。
建造物や仏像などは観光収入以外によほど基礎体力がないと維持管理が大変で、小さな寺院などでは仏像博物館などに預けたままという例も多い。
まして日本には高温多湿という宿命を背負った国なので保存には大変な苦労があることだろう。当然国や自治体の保護がないと維持するにも大変である。
その文化財によって成り立つような観光県にも新自由主義的な政党の首長が誕生し、さっそく民族博物館のコストパフォーマンスを言い出した。大阪で文楽がやり玉にあがったように、背筋の凍るような文化財政策が幅をきかすようでは果たして憲法の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」さえ守られるのかどうか。
最近の政権党にも文化の薫りがする人材が見当たらなくなってきたようにもみえ、梅雨湿りでなくても心まで冷えてくる。

吸着盤

引きはがすやうに椅子引く梅雨湿り

湿度80%超。

猫のトイレの砂も心なしか湿っぽい。
何十年来とつきあってきた古ぼけた食堂の椅子の、まるで吸着盤のように床にぺったり張り付くようになる癖も知り尽くしているが、まずは、上へ持ち上げるようにして引きはがすのがコツだ。

熨斗の始まり

干物吊る路地梅雨湿り潮じめり

鳥羽一泊が明けると自由解散なので、海女の浦へ行ってみることに。

まずは、国崎(くざき)の海士潜女神社(あまかづきめじんじゃ)へ。
その昔、この地を訪れた倭姫命に鮑を献上したところ、これが大変美味であると以降伊勢神宮に献納するように言われた。以来、日持ちがするように熨斗鮑にして奉納してきた土地で、神社のご神体は海女の始祖である。この熨斗鮑が「のし」の原型である。迷いながら浦の小高いところにようやく見つけたが、意外に小さな神社。人は誰も居ず、写真に撮っただけで失礼した。

志摩には海女で有名な浦はいくつかあるが、相差(おうさつ)には「海女資料館」があるらしいので、さらに半島を南下する。
資料館で海女の使う漁具などを見たあと、町を歩くつもりだったが、この日は朝から海が全く見えないほど霧がでて、ただでさえ梅雨の湿度がうっとおしいのに、潮を含んだような霧のなかの湿度はただごとではなく、吟行をあきらめて半島の先端。大王崎灯台まで行ってみようと決めた。

最近G7が開かれた場所ではないかと思えるような立派なホテルに感心しながら、灯台の先端だけが見える場所にようやく到着したが、ここからは車は入れず徒歩で行けという。何しろすごい湿度だし、500メートルほどもあろうか、上りの道などとても歩く気も失せそのままUターンせざるを得なかった。
干物を売る店もあり、あれだけ好きなアジの干物も並べられていたが、車から降りる気さえ起きなかったのはどうしたことだろう。

湿気地獄

回覧板回し廻され梅雨じめり
枚数の多き回覧梅雨じめり
留守の間の封書葉書の梅雨じめり
状差のものみな垂れて梅雨湿り
鉛筆の細く削れず梅雨湿り

毎日毎日、梅雨がらみの句ばかり。

空気が乾いているということがどんなにいいことか。
この時期にいつも思うことである。
H以下の硬い鉛筆だって繊細に削れるし、紙のすべりもいい。
通勤のワイシャツだってしっかり糊の腰が残っているし。
梅雨で何が嫌だといったら、このワイシャツやズボンが湿って折り目が消えるどころか皺だらけのしどけない姿になることだった。
そんな湿気地獄からも解放された今は、一日中Tシャツでいられる幸せに浸っている。