廬山寺にて

廬山寺はむらさきならず冬桜
橘の色を葉陰に源氏庭
白壁にさゆるる影の紅葉かな

御所見学を終えて次は廬山寺だ。

近年ここが紫式部の邸宅跡であることが証明され、以来ファンの訪問がひきもきらない。
ここの白砂の庭は源氏庭として有名だが、残念ながら季節外れにて紫のゆかりの桔梗は見られなかった。その代わりと言ってはなんだが、橘の実がすっかり色づいているし、冬桜も迎えてくれた。

前庭では紅葉の影が白壁に揺れ、筆塚の明朝体の揮毫が大変珍しかった。

季節便り

紅葉のテレビ中継箸止まる

ありがたいことに、この時期各地の紅葉の模様が放送される。

我が家では行儀はよくはないが食卓でもテレビが見えるように設えてある。ときどきの各地の便りは朝食の時間帯に放送されるときが多い。季節の便りが流れると、家人に声をかけたり、テレビに見とれてしまって箸が止まったり。ニュースをたねに朝の話題が盛り上がると、その日はスタートからして気持ちいいものである。

これからは牡蠣とかズワイガニのニュースなんかも流れるんだろうな。

言葉にできない

トンネルを抜けて紅葉峪の落つ

小海線ローカル列車の旅は圧巻だった。

紅葉である。車窓を覆いそうになるほどの落葉松林では幹や枝に絡みついた真っ赤な蔦が鮮やかすぎる。思わず大きな声を出してしまったのが、トンネルを抜けたと思った途端飛び込んできた光景だ。すべての山肌が色とりどりの雑木に塗りつぶされ、それがまた深い渓谷を形成しながら水とともに深い底へとなだれ込んでいく。

たっぷり20分ほどの紅葉列車を楽しんだら、さらにもう一つ大きな声を出す光景が待っていた。清里高原駅まえの花壇である。ドウダンツツジの燃え方が尋常でない赤さなのである。人工ではこれ以上の深さは再現できないと思われるような紅葉なのである。吟行の仲間一同が異口同音にこの赤さについて口々に感嘆の声を漏らす。

残念ながら、句会でこれをうまくものにしたものは一人もいなかった。というより、誰もこの光景を句に詠んだものはいなかった。それだけこの色が言葉では簡単に表せないもの、安易に詠んだら礼を欠いてしまいそうな、そんな雰囲気すら漂わせていたのかもしれない。

花札

紅葉を傘と気取るやはぐれ鹿

花札そのものだと思った。
県内の紅葉名所はどこも見所だとテレビがいうので、まずは奈良公園から東大寺へ。
今年完成した東大寺ミュージアムでは不空羂索観音立像、日光・月光菩薩立像(いずれも国宝)にお目にかかることができた。
他に東大寺創建の頃の遺物の展示もあり、なかなかの見応えである。
おりよく南大門手前で鹿君が煎餅には目もくれずひたすら水を飲んでいるシャッターチャンスにも恵まれた。
雨天だけど気分は晴れであった。

意外な穴場

幾色と知れず赤目の紅葉かな

まだひと月ばかり早いと思うが意外に三重・赤目の紅葉はすばらしい。
30年近く昔の話だが、見上げるような峡谷を縫って走らせていたとき、突然眼前に広がる雑木の紅葉に息を飲んだことがある。
黄、金、赤それぞれに微妙に色合いが折り重なるようになった紅葉・黄葉の世界である。
その色数をひとつ、ふたつと数えてみるがとても数え切れない。