春を呼ぶ行事

お水取り紙衣は裂けも煤けもし(おみずとりかみこはさけもすすけもし)

東大寺お松明

お水取りというが、実際のお水取りは最終日だけで、それ以外では火を用いることの方が多いらしい。

回廊をお松明をぐるぐる廻しながら堂童子が走る絵が有名だが、実は、大団円を迎える3月12日からの行では達陀の行法(だったんのぎょうほう)という、礼堂の中でお松明を使うもっとも秘儀めいた行が行われる。この行では礼堂の内部で大きなお松明を床に突き刺すような仕草で火の粉が飛び散り、それを堂童子らが箒ようのもので叩きもみ消す動作が繰り返される。よくも火事にならないものだとほとほと感心するほどの火の勢いなのである。
以上は、この期間国立博物館で展示されている東大寺修二会のビデオから得たものであるが、回廊の外でみられるお松明だって、たかだかと軒に揚げてみせる所作の折には延焼するんではないかと十分にハラハラさせられるのである。こんなときお松明が崩れて落ちるなどすれば観客席からどっとどよめきがあがる。

堂の中で行われている行の様子は外からはちっとも分からないのであるが、ときおり聞こえてくる堂の床を打つ音、これは「差懸(さしかけ)」という練行衆独特の下駄の音であり、五体投地の音なのであろうが、想像の域を出ない、一般人にとっては、お松明が回廊を走る光景が春を呼ぶ待ちに待った行事であるというだけで十分意味があるのである。