しおでの実添へて抹茶をふるまへり
タチシオデの実というのは黒い。
あまりに黒いので最初はヌバタマかと思ったのだが、タチシオデという但し書きがあったので調べると、春は食用に適し薬草としても用いられるそうである。ホテルでは到着した来客のためにロビーのコーナーに茶席を設けられてあり、そこでは抹茶がふるまわれ、洋菓子のメレンゲクッキーという何とも微妙なお菓子も供された。
茶席の床机台に目をやると、茎や葉がすっかり枯れて黒い実がアクセントになったタチシオデがおかれて、それがまた秋の野草そのものの素朴な佇まいを漂わせており、高原の宿に着いたんだなという思いをいっそう深くすることができる。初めての吟行句会を前に落ち着かない気分にいるものには心憎い演出で心を静めてくれるのである。