奥津城

救急車よぶに半刻余花の郷

鰻を食いに津まで。

高速道路で往復するだけでは能がない。新緑の時期でもあり、一度は通らなければと思っていた伊勢本街道経由でだ。
これが大正解。目にしみる新緑とはまさにこういうときを言うのか。
とくに、ちょっと寄り道した北畠神社に隣接する「北畠氏館跡庭園」はいかにも武家の庭らしく剛健そのもの。池をめぐらせてその護岸の石組みといい、庭園の石群がバランスよく配され、それら石群らの上には楓などの新緑が影を落としていて全体が緑がかってみえる。

枯山水といへど若葉明りせる
若葉して武士どもの館跡

伊勢本街道とはここで別れて、かつての名松線沿いの道路に戻ろうとしたら、県境の方から来たのであろう津ナンバーの救急車が来て、その後方を伴走する形となった。ところが、行けども行けども救急車は目的地に着かないらしい。とうとう旧久居警察署まで一緒することになった。その間約30分ほどだろうか。
おそらく旧久居市内の病院に向かったのであろうが、呼んでから迎えに来るまで30分として、異常があってから救急病院にたどりつくまで往復に最低1時間以上もかかる計算になる。平成の大合併もいいが、過疎地医療の深刻さというのは解決するどころか、さらに悪化しているのではないかとさえ思えてくるのだった。

疑はぬ廃線復活落花掃く
廃線の鉄路かげろふ奥伊勢路
廃線を糾ふ道の余花しげし

県境の孤峰

思はざる山に酔ひ余花に酔ふとは

県境は九十九折なり余花にゑふ

国道166号線、伊勢街道を下る。

三重との県境に近くなり標高1248メートルの高見山が前方に見えてくると、バスの中は歓声に涌く。もちろん初めて高見山を見る私もインターネットである程度想像していたとはいえ、こうしてあらためて肉眼で見てみると周囲を睥睨するような、いわゆる孤峰の姿というのは本当に美しい。
バスはなおも右に左に曲がりして行くとますます孤峰が近くなるとともに、そのカーブを曲がるたびに今度は次から次へと咲き残った桜が目の前に現れてくるのだ。山に酔い桜に酔う。伊勢街道の今は誰をも魅了するに違いない。

初瀬街道

開発のここにおよばず余花の径

桜井、名張経由の国道165号をたどって津に行った。

名張は30年ほど前に通りかかったおりたまたま夏見廃寺跡を訪ねたことがあって懐かしい土地なのだが、当時は周りには何もない状況だったのに今では立派な運動場ができたり、近くを通る国道165号沿いの変わり様は目を瞠るほど。近年大阪のベッドタウンとして開発されたとのことなので当然と言えば当然だが、名張と言えば旧市街のくすんだ瓦屋根の家並みのイメージしかなかったのでその落差にはおおいに戸惑わされる。
ひとしきり賑やかとなった名張郊外をすぎると青山高原口から久居に出る道だが、新緑まぶしい峠道に一本の桜の木がまさに満開であった。