高々と涅槃図掲げ総本山
三丈の本尊黙し涅槃の会
須弥壇の昏きに浮かぶ寝釈迦かな
涅槃図の落剥あるも月皓し
褪色の皓月照らす涅槃像
涅槃図の月落剥の古さかな
涅槃図の緑沈める沙羅双樹
片肌の額づく弟子や涅槃の図
学僧の導師に和する涅槃の会
内陣の裏よりあふぎ涅槃像
涅槃会の導師の指の能弁なる
促され涅槃の像に焼香す
仄暗い須弥壇に浮かび上がるような寝釈迦である。
旧暦2月15日に入滅されたので、涅槃図に描かれる月は満月である。涅槃図がどれだけ古いのかは分からないが、その月がまるで雲がかかったように落剥がはげしい。
全体に古びてはいるが、朱が使われた部分は時の経過にかかわらず鮮やかに浮かび、沙羅双樹の深い緑がさらに深く沈潜しているように見える。
五体を投げ出して嘆き悲しむ弟子の片肌が痛いほど白いのが印象的な図である。
涅槃会では、導師と学僧とが二部合唱しているかのような和讃が終始つづき、導師の低音部に和するような学僧たちの高い読誦が、まるで耳に心地いい音楽のようである。
以上の要素を句にするだけで6,7句程度は詠めそうな気がするのだが、これがなかなかそうは行かない。