白い片肌

高々と涅槃図掲げ総本山
三丈の本尊黙し涅槃の会
須弥壇の昏きに浮かぶ寝釈迦かな
涅槃図の落剥あるも月皓し
褪色の皓月照らす涅槃像
涅槃図の月落剥の古さかな
涅槃図の緑沈める沙羅双樹
片肌の額づく弟子や涅槃の図
学僧の導師に和する涅槃の会
内陣の裏よりあふぎ涅槃像
涅槃会の導師の指の能弁なる
促され涅槃の像に焼香す

仄暗い須弥壇に浮かび上がるような寝釈迦である。

旧暦2月15日に入滅されたので、涅槃図に描かれる月は満月である。涅槃図がどれだけ古いのかは分からないが、その月がまるで雲がかかったように落剥がはげしい。
全体に古びてはいるが、朱が使われた部分は時の経過にかかわらず鮮やかに浮かび、沙羅双樹の深い緑がさらに深く沈潜しているように見える。
五体を投げ出して嘆き悲しむ弟子の片肌が痛いほど白いのが印象的な図である。

涅槃会では、導師と学僧とが二部合唱しているかのような和讃が終始つづき、導師の低音部に和するような学僧たちの高い読誦が、まるで耳に心地いい音楽のようである。

以上の要素を句にするだけで6,7句程度は詠めそうな気がするのだが、これがなかなかそうは行かない。

“白い片肌” への4件の返信

  1. 涅槃会に参加することが難しいうえ、導師と学僧の和讃を生で聞けるなんて貴重な体験だね。
    特に二部合唱のような和讃は聞いてみたかったね。
    たまたま3月11日に鎌倉芸術館で東北大震災の追悼コンサートがあり、合唱団の指揮者、ピアニスト等関係者が出演するため、チケットを購入(寄付)し聞きに行ったのですが、冒頭、建長寺の宗務総長さんが読教されたのですが、すばらしい声で、演奏会に出演した声楽家に負けないくらいホールによく声が通っていて、聞き惚れました。
    和讃もさぞや素晴らしい荘厳な響きではなかったのかなと想像できます。
    昔は、声のよいお坊さんは檀家さんからもてたと聞きますが、よく分かりますね。

    1. この初瀬の長谷寺というのは真言宗豊山派の本山で、全国から多くの学僧が来ています。導師の他に寺僧、学僧合わせて30名ほどが誦経するわけで、導師の低音の誦経に学僧たちの高い和讃がハーモニーして高い天井の内陣に響き渡るのですから、そりゃあ荘厳なものです。
      参道にお住まいの俳句会員のおかげで、間近に拝見することができたのは幸いでした。ここは2月には修二会の「だだおし」という行事でも有名で、またお願いしたいと思いました。

  2. 色々と見聞を広めておられけっこうですね。寝釈迦なんですね。句を読ませてもらい様子がよく分かります。

    1. 西を向き北を枕に臥せておられる。入滅されたときのお姿だそうです。
      涅槃図には登場人物にも決められていて、母の摩耶夫人、弟子たち、動物たち、満月に沙羅双樹などなど。
      この機会にいろいろ知ることができました。

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