尾根道の棚田

走り根の畝と見えたる椎落葉

丘陵の尾根を巡る道に出た。

人踏跡がついて、走り根が浮き彫りになっているが、そのその隙を埋めて椎落ち葉が積もっている。まるで、棚田に落ち葉の水が張ったようにみえて、走り根はその畝のようにも見える。
立ち止まってしばらく眺めていたいのだが、そうもしておれない。止まれば藪蚊の襲来だ。

落ち葉に足をとられるぬよう行くしかない。

ま幸くあらば

飯を盛ることなく椎の落葉かな

仮宿に盛飯なかりし椎若葉

万葉植物園ではところどころ草木が詠み込まれた歌碑が建っている。

大きな椎の下には有間皇子の歌碑があった。

家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る(有間皇子 万葉集 巻2-142)

高校の教科書にあった懐かしい歌である。謀反が発覚し熊野に行幸している斉明天皇のもとに送られる途中詠んだ歌だと、後になって知って深い感慨を覚えたものである。

この時期、椎や樫などが若葉を茂らせるようになると古い葉がしきりに落ちる。「椎若葉」も「椎落葉」もともに夏の季語であるが、かたや新しい命を、いっぽうは去りゆく命を詠む。歌碑の周囲一面の椎の落ち葉は、若い命を散らせた皇子と重なって見えてくるのだった。