古都を染める

櫨紅葉大仏殿の屋根もかな

奈良の秋と言えば南京櫨。

東大寺大仏殿裏の櫨紅葉

カエデより一足早く古都を真っ赤に染め上げる。元興寺の門をおおう南京櫨も見事だが、奈良公園の中でもちょっと外れた大仏殿の裏手、正倉院へ向かう通路の南京櫨の並木などは見事だ。正倉院側に立って大仏殿を振り返ると、黒くて大きな屋根とのコントラストが素晴らしい。色の組み合わせもそうだが、櫨は高く育つので大きさのバランスでも大仏殿に負けていないところがその妙味ではあるまいか。

葉は切れ込み部分がないハート型のようであり、厚みもあって滑らかなので、葉裏までしっかり紅葉するとツヤもいい。中国からの外来種だが、実を鳥が運んで自生することも多く、全国に街路樹としてもよく採用されているということだ。
実はまだ青かったが、これが初冬、葉を落とす頃には白くなって蝋燭の材料となる。

小宇宙

水盤の小さき林の櫨紅葉

茅葺きの古民家を改築した宿がオープンしたばかり。

一日の客は一組限りの贅沢な宿で、主は金峯山寺の行者さんでもある。天井は高く、太くて立派な梁がむき出しである。囲炉裏の設えられた広間は松の床が敷き詰められ、裸足で歩くのが心地よい。
床の間には蔵王権現の御しるしのほか法螺など先達必携の道具が並べられ、鴨居には忍者の里に近いことをうかがわせる武具などもかけられて、その土地の歴史をしのばせる工夫などもされている。
うす暗さにもだんだん目が慣れてくると、水盤に水がいっぱいはられた盆栽が部屋の奥の棚に飾られているのに気づいた。

コンパクトに櫨の木を密集して植えてあり、それらは半ばすでに紅葉し、半ばは紅葉を待つばかりという風情。主、やるなと思った。