潮水で洗うだけ

業物は手包丁なり沖膾

夏休みに訪れた友人の親戚は漁師だった。

あさから舟を出しボート遊びに興じていたが、やがてそれにも飽きた友人は海に飛び込んだ。戻ってきた手には鮑が載っており、さっそく手でさばいたと見るとそれを海水で洗いそのまま口に運ぶ。お前も喰えとばかり囓りかけの鮑をもらったが、醤油も山葵もなにもつけない身は潮水との絶妙なマッチングで、こんな旨いものが世にあることを初めて知った。
以来、寿司屋に行けば鮑は必ず頼むが、さらにその腸がまた格別旨いものだと言うことも大人になって知った。
ただ、食い過ぎるのは尿酸値にはよくないと聞いてからもう随分長い間遠ざかっているのはちょっと寂しい気がしないでもない。