落柿舎

実式部の本懐ならん鳥寄り来

白式部と紅葉した南天

俳人にとっての聖地の一つ「落柿舎」を訪れた。

落柿舎の木守柿

源氏完読記念ツアー二日目の散策を終えてメンバーと別れ一足先に奈良へ帰ることとなったが、そこがちょうど落柿舎から5分とかからない場所だったので、時間は4時を回っていても迷わず立ち寄ることにした。
時期が時期だから二本ほどある柿の木のうち、一本の木はすでに実の一つも残っていないが、同じくすっかり葉を落としたもう一本にはまだまだ成熟した実が残っているのが遠目にも確認できて、すぐにあれが庵だと知れる。門をくぐると、この時間になると訪れる人もまばらで、ときおり次庵の庭からクリアな添水の音がよく聞こえてくる。

投句箱すへて間遠の添水かな

落柿舎に来たメジロ

そのとき、突然目の前の梅の古木のまわりに何匹かのメジロがまるで涌くように集まってきては近くの白式部の実をついばむのだ。ほんの1メートルほど先の光景だっただけにびっくりしたのって何のって。こんな経験は初めてだ。花鳥風月を愛でる俳人ゆかりの庵には、こうして鳥たちだってすっかり警戒を解いてくれているのかもしれない。

晩秋の響き

ばったんこ錆びたる音を打つばかり
ささくれて音のもれたる添水かな

まるで飛鳥の酒船石を模したようかのような石造物がある。

四つ五つを少しずつ傾斜をつけて組み合わせ、上から下へ水を流すしかけである。ここは何時行っても枯れていて何のために作ったのか首を傾げることが多いのであるが、三連休のあいだに訪れたときに水が流れているのを初めて見た。
この水は途中いろいろな変化をつけながら、曲水を描くようにやがて大池に流れ込んでいくのであるが、段差を大きくつけてある部分では山紅葉が覆っているのでせせらぎの音だけ聞こえてきて、これが五感すべてを癒やすように心地よい。
で、この酒仙石だが、近づくにつれ何だか様子が変だ。添水の仕組みを設えてあるのはちがいないが、周囲にひびきわたるような小気味いい音とはいかず鈍い音しか聞こえてこない。どうやら竹が古びてひび割れているのが原因だった。まさに竹刀で叩くような音そのものなのである。

明日はいよいよ立冬。晩秋を感じとるにはちょっとわびしい音であった。
馬見丘陵公園にて。