煮えない

田水沸きうごめく蝌蚪の月遅れ

油面のようにぎらぎらとした光りを返している。

足を突っ込めばおそらく長くは入れないくらい熱く湯のようになっているはずだ。
そんな熱い水田にちょろちょろとうごめく黒いものが見える。
最近孵ったおたまじゃくしである。春の季語とされるが、種類によっては今ごろ孵化するものがいるようで、多分これは雨蛙の類いではないかと思う。
水深十センチ足らずの田水だから、晴天が三日も続けばたいていの生きものは煮えたぎったり、生息できないと思われるがこの逞しさはどうだ。
これらを狙って鷺の仲間が集まるのをよく見るが、日中のこの熱さでは鳥だって休んでいるに違いない。

目の敵

杖をもて田水の沸くをかきまはす

昼間はよほどのことがないかぎり外へは出ない。

ニュースでは草取りをしていてお決まりの熱中症で救急車で運ばれたり、亡くなられたり、このところ毎日のように聞く。
たしかに今年は雨がよく降るので草の伸びが驚異的で、昔から雑草を目の敵としてきた人たちにとってはじっとしていられないのだろう。
どうしても行かなければならない時は、飲料の携行、休憩をこまかにとるのは当然として、なるべく単独にならない時間を狙うことも大事である。この時期日の盛に畑作業するひとなどいないだろうから、朝夕なら誰かがいるかもしれない。
夕方になって日中の暑さから解放されて散歩するひとがぽつぽつと増えてきた。田圃の生きものが気になるのかしきりにのぞいては杖で確かめている光景もあった。いくらか涼しい時間帯になると周りにも関心を抱くようになるものだ。

過酷な

田水沸く適者生存言うものの

田の水が湯のように熱い。

6月も遅くに水が入った田なので、おたまじゃくしが孵ったのも遅かった。
彼らは鷺軍団の猛攻にも耐え、身を寄せながら小さな命をかけて頑張っていたのだが、無事にカエルに成長できたのだろうか。
そういえば、ここ数日は鷺の姿もあまり見かけなくなったようだ。