名門は消えるのみ

昭和にはありし社紋の秋扇

羽振りをきかせた会社の扇子をいまだに持っている。

古い鞄にしまったまますっかり忘れていたのを偶然発見したものだ。
よく見ないと分からないほど幽かな企業ロゴが隅に印刷されているだけの簡素なつくりだが、かえってそれが老舗の気品をたもっているようにも思えるのだ。

販促品

もてあます秋の扇の香りかな
秋扇の強き香りをもてあます
手のものをなんでも秋の扇かな

扇子というのは買ったことがない。

たいていは、営業の販促ツール、景品などでもらったもので間に合わせている。
使う頻度もそれほどでないので、けっこう長持ちしているし、機能としてもそれで十分なのであるが、困るのは薫きしめてある香りだ。
それこそ、暑いときには夢中で扇いでいるせいか気にならないが、秋ともなるとその香が「強い匂い」に感じてしまい、狭い室内などでは使うのもためらわれてくる。
何年たってもその香というのは消えないもので、サラリーマン時代に使っていた扇子にも未だにほのかな香水の匂いがする。

他にも、ひょっとした機会にもらった、殺し屋と異名をもつ有名碁士のサインがある本格的な「扇」がてもとにあって、これには勿論香水などついてないが、人前で広げるのにはちょっと恥ずかしいものがあり、結局今は扇とは縁遠い日々になってしまっている。