赤のまま

人影のなき山畑の蕎麦の花

手のかからない植物なのだろうか。

種を蒔いたらあとは手を入れることもなく、三か月もすれば収穫を迎える。痩せ地でも育つといえるので雑草並みに強い植物に属するのだろう。
救荒作物のひとつともなっているが、その条件にもかなっているのではなかろうか。
山を切り開いた広大な畑は空が近い。秋の雲がゆっくり流れてゆくなか、真っ白な畑に犬蓼の花の赤がアクセントになっている。

爽涼の花

山畑のうねりうねりつ蕎麦の花

もうとっくに咲いているところが多いだろう。

夏に蒔けば今月のいまごろ花の季節である。
うねった山畑がどこまでも続く。それがみんな蕎麦の花である。
蜂を中心とした虫がいっぱい飛び交って、秋や冬に備えてみな忙しい。
新蕎麦まであとひと月くらいか。

うねる絨毯

蕎麦の花山畠うねりゐたりけり
山畑のうねりの谷の蕎麦の花

山を切り開いて作った畑。

見渡して、ずっと1キロ先まで畑が続く。
開墾したと言っても、自然の地形を利用した畑だから高低差があるのは当然だ。
その高低差をたくみに開けば、おのずと波状型のうねりをもった土地になる。
蕎麦の花咲く丘ひとつ越えてその上に立てば、うねりの底もまた畑で、そこも一面白い花の蕎麦畑であった。

蕎麦の茎は赤い。その赤に紛れるように犬蓼が赤い実を付け、赤蜻蛉が群れて飛ぶ。
うねりの底から丘を見上げれば、赤い絨毯に白い花が浮いているようで、それがそのまま丘の上へと空につながっているように見えた。

紅添えて

牧の声遠くに蕎麦の花日和
牧の香を運びくる風蕎麦の花

うねるような丘が続く。

もうひとつ向こうの丘には牧舎が見える。
独特な匂いが風に乗って鼻をくすぐる。
もしかしたら、堆肥にするためにどこかに積んであるのかもしれない。

今にも折れそうでいて、いかにもしなやかそうな蕎麦の花が満開だ。
タデ科なので虫はあまり寄ってこないが、蜂だけが忙しそうに飛んでいる。
白い絨毯に、犬蓼の赤、赤とんぼの紅がコントラストをつけている。

高原に思いを馳せる

御嶽の今は静かに蕎麦の花
御嶽の煙そびらに蕎麦の花

信州の蕎麦畑を渡る風はもう完全な秋。

蕎麦畑の向こうに横たわる御嶽山は、ほんの一年前の噴火など忘れたように青い空を背景にしている。
もう随分昔、高山から御嶽のすそをめぐって木曽谷、伊那谷を横断したときの御嶽山のふところの広さには感動した。当時、国道の一部はまだ舗装もされてなかったがそれが逆に秘境の趣を強くしていたように思う。
今では高原の豊富な観光資源をてこにして人気スポットになっているようだが、やはり素朴な味は変わらず残されているようで、今時分はトウモロコシが最盛期のようである。

高原の冬は早いのでこれから一ヶ月くらいが見どころだろうが、再訪したい気分が強く誘われる。