四面楚歌

醜草をぬきんでて揺れ美人草

雨上がりの涼しい日を狙う。

思いたって庭の草を刈ることにした。草引きではなく、鎌でざっと刈るだけである。
今ごろはポピーの時期なのだが、今年は雑草に負けそうになりながらも辛うじて息を吸うように頭一つ出て揺れている。いったい何時から、あるいは何処から種が飛んできたのか分からないが、毎年増えているように思える。抜いてみるとしっかりとした、牛蒡のような直根なので多年草と思うかもしれないが一年草である。
一般にはポピーだが、歴とした和名がある。
雛罌粟ひなげし、別名・虞美人草(または美人草)である。こう聞くと、由緒ある高貴な花というイメージに一変してしまうところが面白い。項羽の寵姫・虞の死後、墓のそばから咲いたのでそのような別名があるわけであるが、垓下の戦いに破れ、しかも周りの漢軍に楚の国の歌を歌われて心理的に大きなダメージを受けた楚国の英雄の悲嘆にストレートに響き合うものがある。

汝を如何せん

吹くからに虞美人草のしなりやう

風が吹く日が続いている。

ポピーの種がどこからか飛んできたようで、庭で風に吹かれている。
あの細い茎が今にも折れそうだが、これが簡単には折れずしなやかに風を受け流すのである。
四面楚歌のうちに項羽が嘆いた歌で知られるあの虞美人が自死してこの花に化したとか。言われてみれば、一見頼りなさそうでいて芯の強い花なのかもしれない。