根雪

嫁ぎ来し国を呪へる雪解どき

母の口癖だった。

三月の今ごろになると、雪解けでなにもかもが泥に覆われるかつて暮らしていた北陸の土地を嫌った。新婚当時夫(私にとっては父)の仕事に従って異国にやって来たが、この根雪が解けた泥濘の暮らしを一番嫌った。このことを後年何度聞かされたことか。
昔とちがっていまの北陸には根雪はほぼなく、降ってもすぐに解けてしまうらしいので雪解けに難儀するということはもうないはずであろうが。
私の生まれたその日は大変な大雪であったそうな。

寒明けの雪

古歌の碑をたどる山路の雪解かな

今朝飛鳥村が薄化粧したというニュースに飛びついた。

甘樫丘に登れば飛鳥旧址全体が見えるかと、昼食ももどかしく真っ直ぐかけつけたが、稲渕など奥飛鳥を残してほとんどの雪は消えている。
雪の旧蹟を歩く興はすっかりさめたが、それでも飛鳥に来るとまず登ってみたくなるのが甘樫丘なのだ。
今日は南から北に向けて、南北に長い丘の尾根を歩くことにした。尾根の径は、万葉の植物園路と名づけられ、万葉古歌に詠まれた樹木が植えられて、一本一本立ち止まっては歌と木の名を確かめながら歩くのでちっとも退屈しない。
ただ西風がやたら強く、展望台に立つとせっかく登ってきて温まった体がすぐに冷えてきて長居はできそうもない。
三山をぐるっと見渡して、盆地をさっと眺めただけで帰路をとることにした。

だが、さすがに小鳥は多い。双眼鏡を持たずに来たので、目の前で確認できたのだけでも、ヤマガラ、ジョウビタキ、コゲラ、シジュウカラ、アオジ、モズの雌雄などなど。

雪解と言うほど積もったわけではないが、日の当たらない部分ところどころ夕べの雪が残っている。雪解水もしたたるわけではないが、久しぶりに雪を見ることができた。