風来坊

蓑虫の顎でまかなふ衣食住
鬼の子のハンギングして何せんと
蓑虫の倦みて糸吐く引きこもり

冬になって葉が枯れてくるとよく見える。

蓑虫の蓑は枝にしっかり繊維を巻き付けてあるようで、簡単には外れない。
その蓑は、葉っぱや枝の繊維を己の分泌するもので固めたものだから、和紙のような構造をしているのだろう。葉っぱだけでできているのもあれば、茶柱のような細かな枝を貼り合わせたようなものもある。
冬の間はこのように、しっかり枝に固定されているが、今時分は昼間はあの蓑にくるまっておとなしくしていて、夜に葉や枝などを食べるために活発に活動しているらしい。
ときに糸を長くたらしているところを見たりするが、さらには袋から顔だけを覗かせているときもする。見ていると、なかなか固そうな顎に恵まれているようで、エナメル質の頭部がまるっこくて可愛い。
腹が減れば顔を出して葉っぱをかじればいいだけだし、自分の唾液で作った蓑のなかにいるだけで衣食住にはまったく困らない。
「蜘蛛の糸」のカンダタとちがって、糸に追いすがってくる亡者もいなければ、再び地獄に落ちる心配もない。
ただ風来坊よろしく風に揺られていればいいのである。

ただ、人間、とくに子供は残酷である。
蓑にくるまって身を守っているのを強引に引き出そうという遊びの対象にもなる。

蓑虫のチューブしごかれピンチかな

蓑虫の顔を見ようとするにはあの袋を裂けばいいのだが、しっかり繊維で固められた袋は子供の手には負えない。どうするかというと、蓑の尻から押し出すようにして顔を出させるのである。ちょうど絵の具の最後を絞るように、尻の方からしごいていくのである。用心深くやると、仕方なく顔を出してきたところを御用となるわけである。