春泥の靴で都心に帰りたる
泥をつけたまま客先に上がるなど言語道断。
さらに、泥靴でバスなど乗れば同乗客の顰蹙を買うこと間違いない。
一般社会のエチケット、マナーの世界では、人と会ったりお宅に伺う前には泥は拭わねばならないことになっている。
泥は忌むべきものなのである。
ところが、俳句の世界ではこの泥がいいと言うのだから分からないものだ。
単なるぬかるみではなく、雪解けや霜解けなど春先独特のぬかるみを総称して「春泥」と呼び、珍重するのである。
掲句は、終日田舎道を歩いたあげく、泥を拭いもせず疲れ切った体でバスに乗り、電車に乗り、地下鉄に乗って帰ってきたのである。道中、多くのさげすみの視線にさらされたのは言うまでもないだろう。